速水が運転するプリウスが、東京都心から少し離れた私の実家の前に停まったのは、いつもよりは断然早い夜十時のこと。


「お疲れ様でした。明日はCM撮影がありますので、午前九時にお迎えに上がります」


律義に運転席から降りてそう言った速水に、私は少しだけ肩を竦めた。


「……あれからやけに静かでしたね。疲れましたか?
今日はいくらか時間もあると思いますので、ゆっくりお休み下さい」

「……速水こそ」


私は自宅の門に手をかけながら、速水に背を向けてそう言った。


私を家まで送り届けた後は速水も直帰になるから、今日の車は速水の私用車だ。
社用車のレクサスで送られる日は、事務所に戻って仕事をしてることは知っている。


「うちから速水のマンションまで、一時間は掛かるんでしょ? 私よりも時間ないんだから」


おかしなことを言ってるつもりはなかったのに、背後で速水がクスクスと笑った。
なんとなくムッとして振り返ると、口元を隠して笑い声を抑えながら、速水がすみません、と呟く。


「いえ……。私の心配が出来るなんて。あなたにも人を気遣うことが出来るんですね」

「ひ、酷っ……」

「ですが、お気遣いなく。世間一般的に見ても、私はあなたのおかげで食わせてもらえるんですから」


何も知らない他人が聞いたら、さぞかし意味深な言葉だと思う。
だけど結局、『私は商品』でしかないことを前面に出した言葉だから、私はやっぱり不機嫌になる。


「まあ……出来れば、立地的にもセキュリティ的にも、都内のマンションに引っ越して頂けるとありがたいんですけどね」

「それは無理」

「……ですよね」

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