CM撮影は一時間押しでなんとか終了した。
休憩明けの私は悲壮なまでにやる気を出していたし、ようやくOKをもらえたテイクは自分でも及第点だと思える表情を浮かべていた。
だけど。


「まあ、監督も相当妥協した結果でしょうね。
悪くはないが完璧でもない。せいぜい七十五点の出来ってとこですか」


いつも通りの速水の皮肉に、言い返せない。
だって自分でもそう思ってる。ギリギリ合格点ではあるけれど、満点の出来とは到底言えないんだから。


だから、プリウスの後部座席で小さく膝を抱え込んだ。
そして、膝の上に顎を乗せて、速水の後頭部をジッと見つめた。


「……そんな出来だってわかってたのに、速水は撮影終わらせるの文句言わなかったね」


ボソッと呟く声を拾ったのか、速水は前を向いたままでフッと笑った。


「何度やっても同じことです。
トータルで見れば七十五点ですが、今のあなたなら満点の出来ですから」

「……誉められてないよね?」

「あのメーカーは、あなたをイメージキャラクターに抜擢したんです。
百点満点のCMにしたいのならば、他を当たればいいことです」

「……やっぱり、貶されてる」


そう、私としては頑張った。
今ある引き出しを全部開けて臨んでも、何度撮ろうがOKカット以上の物にはならない。
監督もそれがわかったから、あそこでOKを出したんだろう。
速水も監督も納得しているのに、『力不足だ』と言われた感に苛まれて、私はキュッと唇を噛んだ。


「この後、雑誌のインタビューの予定でしたが、調整がつかず延期になりました。
今日はこれでオフに出来ますが、一度事務所に戻ってもらっていいですか」

「あ、うん……」


私に確認を取りながらも、もう速水が車を事務所に向けていることはわかっている。
まだ夕方にもならない時間だし、別にこのまま真っ直ぐ帰りたいとも思っていないけど。

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