デイ ドリーム - 儚く甘いゆめ -

傘を忘れて *souma

こぢんまりとした小さな花屋。







大通りに面しているものの少しくぼんだところにある所為かいつも客はそれほど多くはない。





だが、シンプルでナチュラルな白と淡い茶色で統一されたセンスのいい外見だ。





店先にはアイビーが添えられた木製の看板があって、そこには白いチョークで店の名前が書いてある。








"andante"
(アンダンテ)







彼女が働く花屋の名前だ。




音楽の教科書にで見覚えのあるこの単語の意味は
ゆるやかにだとか歩くような速さだとかとにかくのんびりとした彼女にはぴったりだと思う。












相馬はいつものように木で出来たアンティークの扉を押し開け、中へ入っていく。


ちりん、ちりんと澄んだ鈴の音が来客を知らせ、店の奥からはピンクのガーベラを持った彼女が顔を出した。


同時にあまったるい花のかおりが鼻をつく。







「相馬くん、今日は早いんだね」






慌てて花をまとめてその場に置くと、手を洗ってこげ茶色のエプロンで手を拭きながらこちらへやってくる。





そしてひよりは「おつかれさま」とほほ笑んで見せた。




彼女のやわらかくやさしい笑顔が
相馬の仕事で疲れた体と心をほっとあたためて癒す。



こうして仕事帰りにここへ来ることが、一日中働きづめで疲れた体と心のを唯一ほぐしてもらえる時間だった。
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