君と奏でるノクターン

3話/You are only seed.

詩月は、舞台に上った瞬間。
恐れも不安も緊張も忘れて、ヴァイオリンを奏でた。

ピアノ奏者が誰であろうと、関係ないと思った。

詩月は独奏で弾くヴァイオリンならば、全力で形振り構わず演奏してもいいと思う。

けれど、ピアノとの二重奏だ。
共に奏でる相手がいる。

独りよがりの演奏では、ハーモニーが台無しになる。

詩月は耳を澄ませて、宗月のピアノ演奏を聴く。

高速の高音で鳴り響く、繊細な鐘の音色の心地好さが、詩月の心を揺さぶる。

「ラ·カンパネッラ」をこれほど見事に奏でるピアニストは、他にいないだろうと思う。

全幅で信頼し、音色を委ねることができるピアノ演奏。

このピアノを畏怖し、怯え、必死で追いかけていたことが信じられない。


――今まで何を聴いていたんだ。今まで、周桜宗月の何を観ていたんだ

詩月は全魂こめて、ヴァイオリンを弾く。


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