半径1メートル以内、立入禁止。
そんな話をしていると、向こうで山崎主任が「ちょっとにいかね、蓮見くん」と声をあげた。



蓮見がちらりと主任のデスクのほうに目を向け、無言のまま席を立つ。



その顔といったら………。


思いっきり顔をしかめて、嫌悪感を隠そうともしない。



そう。蓮見は、山崎主任が大嫌いなのだ。



自称『嘘のつけない男』蓮見は、口だけではなく、態度まで嘘をつけない。


『本音と建前を使い分ける』、という日本人の美徳である習慣を、蓮見は全く身につけていないのだ。



たしかに、山崎主任は、仕事ができないくせに年功序列で出世して(ただし『万年主任』と呼ばれている)。


部下に仕事を押しつけ、手柄は自分が横取りするという、『イヤな上司』の典型。



そして、その被害を最も受けるのは、もちろん、最も仕事ができる男・蓮見。



そういうわけで蓮見は、主任に呼ばれると、台風と地震と雷が一気に来たみたいな、これ以上ないほどに不機嫌で迷惑そうな顔になるのだ。




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