明日はきらめく星になっても

明日は…

週が明け、玉野さんは三日間ほど忌引きで休んだ。
復帰して直ぐは表情も冴えず、元気もなかったが、クリスマスが近づくにつれ、少しずつ明るくなってきた。
彼女のことを気にかけ、私も声はかけていたが、何よりあの藤堂君が、ものすごい気の遣いようで…。

「くっくっくっ…」
「なんですか?西村先生」
「いやいや、何でもないよ」
昼食時の二人の様子を思い出すと、自然と笑いがこみ上げてくる。
あれこれと気遣う藤堂君の横で、玉野さんが困ったような顔をしておった。
その表情がなんとも複雑そうで、どこか嬉しそうにも見えて……。


「……あの日、藤堂さんに電話をかけたのは、本当に反射的でした…」
玉野さんは後になって話してくれた。
「とにかく誰でもいいから車を出して…という気持ちでかけた所が、たまたま藤堂さんで…」
肩を揉みながら、どこか照れていた。
急な呼び出しにも関わらず、迎えに来てくれた彼は、車中でも実に頼もしかったらしい。
「もうすぐ着くから。絶対に間に合わせてみせるから…って、何度も自分に言い聞かせるみたいに繰り返してて…おかげで私、何だか絶対大丈夫!…って思えました…」
後にも先にも、人生あんなに励まされたのは初めてだったかもしれないと、玉野さんは笑っていた。

だからだろうか。
以前のように藤堂君が無理難題なお願いをしても、無下に断らなくなったのは…。
(あの二人は、近いうちにくっつくな…)
年寄りの勘と言うか、人生の先輩としての経験の差だな。
若い者が互いに引き寄せられ、歩み寄って行くのを、何度も見てきて知っている。
だから、そんな気がするのだ。

……そして、もう一人、面白い者がおる。

「…なんですか?」
視線に気付いたらしい。近寄って来た。
「彼氏とは、仲直りしたのかね?」
「えっ…!な、何のことですか⁉︎ …」
この狼狽えぶり。実に分かりやすい。
「いやいや、前島さん、元気になったなと思ってね」
「あっ…そ…そんな私、いつも元気ですよ…!」
顔を引きつらせておる。若い者をからかうのは実に楽しい。

クリスマス会を終え、忘年会とお疲れ会を兼ねた鍋パーティーを例年通り行い、『ほのぼの園』は年末年始の休暇に入ることになった。
「西村さん、良いお年をお迎え下さい。また来年、元気でお会いできるのを楽しみにしています」
きちんと挨拶してくれる。ここの職員は、本当に気持ちのいい者ばかりだ。
「前島さんも良いお年を。また来年」
握手してお別れ。
今日があっても、明日はないかもしれない身。
この木造園舎とも、次会えるかどうか、分からない身分だ…。
(しっかりと目に焼き付けておこう…)

脳裏深く、
目を閉じても、
浮かんでくるようにーーー
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