むとうさん
多分あの車はセルシオだったと思う.親戚の家の車だけじゃなくて,家の中とか,おじさんとおばさんも好きだった.

居間には日本画の掛け軸があったり,ふくろうの剥製や能面が廊下に飾ってあったり.夜,それらを見て怖がったりするのが楽しかった.

うちにはないものがいっぱいあって,父はおじさんとお酒(多分高い日本酒かなんかだろう)を飲んで機嫌がよくて.母は私がおじの家に行くことを快く思っていなかったが.

理系の大学で機械工学を学んで,多分私たちの学科では花形である就職先につけたわけだけれども.

大学4年間でだんだん気づいてはいたが,私のやりたかったのはカーデザインだった.だけど,私のキャリアからするともうエンジンなんかを作る設計士だった.
< 2 / 113 >

この作品をシェア

pagetop