むとうさん
むとうさんは、私の生活の中にすっと現れていつのまにか、バーにいけばむとうさんとしゃべるというルーティンを形成した。

でも、よくよく考えて見ると私の要素の中で明らかに浮いてるパーツなのだ。
異色を放つ、謎の部分だった。踏み込みたいけど踏み込めない。少し前の失恋を思い出す。

踏み込んでしまったら、むとうさんも
達也と同じようにどこかへすっと消えてしまうのではないか。

私はもう自分の一部を失いたくなかった。

でも、気になる。悩み事があると占いで確認するように、きいてみたくなった。

「あの…むとうさんってヤクザさんなんですかね?」

バーテンダーはよく守秘義務を守るとか、「人のことは本人にきいたらどうですか」とか含蓄のあるっぽいことを言い放つ。

柏木さんも、こんな小さな店だけど一流のバーテンダーさんだ。接客もフレンドリーだけど踏み込んではこないし。流石に言ってくれない
「そうだよ!がっつり、極道さんだね!」

えっ、ちょっと。予想に反して明るく認めたもんだから驚いた。
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