ビターチョコ
宿泊オリエンテーション
出発
「行ってきます!」
「気をつけろよー」
気だるげな父の声に送られ、いつもより早い時間に学校に向かう。
制服でなくて、私服で向かうのも、新鮮ではあった。
やはり、いつも学生が多い時間なので、じろじろ見られる。
まぁ、いい。
いつものことだ。
この光景にももう慣れた。
満員電車に、いつもの通り、ぎゅうぎゅうと身体を押し込める。
この電車に乗れないと、遅刻確定だ。
周りのサラリーマンやおばさん、おじさんに白い目で見られているのは、どうやら気のせいではないようだ。
無理をしてでも、もう少し早起きして何本か前の電車に乗ればよかったと、激しく後悔した。
白い目で見られている理由は、大きなキャリーバッグのせいだとすぐに分かった。
面倒だったが、駅に着くたびに電車から一度駅のホームに降りて、ぎゅうぎゅうの電車から吐き出されてくる人が降りるのを待ってから、電車に乗る。
キャリーバッグが上手く持ち上げられずに困っていると、私と同い年くらいの年齢と思われる茶髪の男の子がひょいとそれを持ち上げてくれた。
「あ、あの……ありがとうございます」
改めて、その子の顔を見て、お礼を言う。
麗眞くんには及ばないが、彼の次くらいにはいい男だ。
世間では「イケメン」と言われる部類だ。
身長は、麗眞くんほどではないが、高い。
私が170と少しだから、それより5、6cmは高いことになる。
「いいえ。どういたしまして。
危なかったね」
縦ストライプのワイシャツに、えんじ色のネクタイ。
スラックスとブレザーは紺色だ。
着崩さずしっかり着ているところを見ると、私と同じ、新入生だろうか。
それから、何度か電車が駅に停まった。
その度に、私と一緒に電車を降りては、キャリーバッグの上げ下ろしを手伝ってくれた。
『本正瞭~本正瞭~
次は、もとせいりょうですー』
私が降りる駅名が、アナウンスされる。降りなければ。
ゆっくり電車が止まった。
すると、その男の人は、そこでも手伝ってくれた。
キャリーバッグを降ろしてくれた後、にっこり微笑んでから「気をつけて」と言ってくれた。
「ありがとうございます」
その声が届いたかは分からない。
でも、今日はいいことがありそうだ。
だてに朝の情報番組の占いで3位だったことはある。
普段は占いなんて聞き流すのだが、たまに当たることもあるのだと、こんなことがあって初めて思った。
電車を降りて、高校までの道を額の汗を拭いながらとことこ歩く。
観光バスが停まる横に、キャリーバックやらドラムバッグを持った、制服姿の人を大勢見かけた。
人の多さに圧倒されて、自分のクラスの集合場所にはたどり着けないでいた。
すると、バスの後ろに停まったリムジンから相沢さんに麗眞くん、椎菜ちゃんまで降りてくるところだった。
その光景をボーゼンと見ていると、深月ちゃんや碧ちゃんに肩を叩かれた。
「おはよー!
理名ちゃん!」
「深月ちゃんに碧ちゃん。
おはよ」
少しは、皆と自然に話せているかな?
そんなことを考えていたら、椎菜ちゃんと麗眞くんに声をかけられた。
「理名ちゃんじゃん?
おはよ。
私服、理名ちゃんらしい、いかにもって感じだけど。
理名ちゃんには、そういう格好のほうが合ってると思うよ」
男の子に誉められるなんて初めてだったから、ほんのり顔が赤くなってしまった。
麗眞くんに褒められて照れていいのは椎菜ちゃんだけなのだ。
私ではない。
麗眞くんに小声でありがとうと言ってから、皆と一緒にバスに乗り込む。
後ろの方の席4つが空いていた。
そこに座って、碧ちゃんと椎菜ちゃんを窓側にしてあげる。
彼女たちは、その方が良さそうだ。
気管支や呼吸器が弱いことと車酔いは、何ら関係ないだろうが、外の景色が見渡すことが出来るので気が楽だろう。
私の隣は空席だが、気にしない。
なんなら座席の横の補助席でも座ってやる。
そう思っていた。
バスは終始賑やかだった。皆が楽しみなのは最終日のバーベキューらしい。
「バーベキュー楽しみだねー。
私たちだけでいろいろ、やろっか!
いちゃついてるカップルはほっといて!
まぁ、冗談だけどね」
なんて会話まで展開されている。
いいの?
私は、朝の電車の男の人のことが脳内にちらつき、あまり会話に集中出来なかった。
深月ちゃんが私の表情を何度か窺ったことから推測するに、彼女はそのことに気づいている。
いつ、この朝の出来事を皆に切り出せばいいのか、私は迷っていた。
迷うなんて、いつもの私らしくない。
さっさと言えばいい。
「朝、こんなことがあったよ」と言うような感じで。
そう思っていたのに。
なんで言えないんだろう。
結局、行きのバスの中では、仲間たちに切り出せなかった。
何度かの小休憩を挟みながら、6台ものバスは目的地である嬬恋高原へと到着した。
「気をつけろよー」
気だるげな父の声に送られ、いつもより早い時間に学校に向かう。
制服でなくて、私服で向かうのも、新鮮ではあった。
やはり、いつも学生が多い時間なので、じろじろ見られる。
まぁ、いい。
いつものことだ。
この光景にももう慣れた。
満員電車に、いつもの通り、ぎゅうぎゅうと身体を押し込める。
この電車に乗れないと、遅刻確定だ。
周りのサラリーマンやおばさん、おじさんに白い目で見られているのは、どうやら気のせいではないようだ。
無理をしてでも、もう少し早起きして何本か前の電車に乗ればよかったと、激しく後悔した。
白い目で見られている理由は、大きなキャリーバッグのせいだとすぐに分かった。
面倒だったが、駅に着くたびに電車から一度駅のホームに降りて、ぎゅうぎゅうの電車から吐き出されてくる人が降りるのを待ってから、電車に乗る。
キャリーバッグが上手く持ち上げられずに困っていると、私と同い年くらいの年齢と思われる茶髪の男の子がひょいとそれを持ち上げてくれた。
「あ、あの……ありがとうございます」
改めて、その子の顔を見て、お礼を言う。
麗眞くんには及ばないが、彼の次くらいにはいい男だ。
世間では「イケメン」と言われる部類だ。
身長は、麗眞くんほどではないが、高い。
私が170と少しだから、それより5、6cmは高いことになる。
「いいえ。どういたしまして。
危なかったね」
縦ストライプのワイシャツに、えんじ色のネクタイ。
スラックスとブレザーは紺色だ。
着崩さずしっかり着ているところを見ると、私と同じ、新入生だろうか。
それから、何度か電車が駅に停まった。
その度に、私と一緒に電車を降りては、キャリーバッグの上げ下ろしを手伝ってくれた。
『本正瞭~本正瞭~
次は、もとせいりょうですー』
私が降りる駅名が、アナウンスされる。降りなければ。
ゆっくり電車が止まった。
すると、その男の人は、そこでも手伝ってくれた。
キャリーバッグを降ろしてくれた後、にっこり微笑んでから「気をつけて」と言ってくれた。
「ありがとうございます」
その声が届いたかは分からない。
でも、今日はいいことがありそうだ。
だてに朝の情報番組の占いで3位だったことはある。
普段は占いなんて聞き流すのだが、たまに当たることもあるのだと、こんなことがあって初めて思った。
電車を降りて、高校までの道を額の汗を拭いながらとことこ歩く。
観光バスが停まる横に、キャリーバックやらドラムバッグを持った、制服姿の人を大勢見かけた。
人の多さに圧倒されて、自分のクラスの集合場所にはたどり着けないでいた。
すると、バスの後ろに停まったリムジンから相沢さんに麗眞くん、椎菜ちゃんまで降りてくるところだった。
その光景をボーゼンと見ていると、深月ちゃんや碧ちゃんに肩を叩かれた。
「おはよー!
理名ちゃん!」
「深月ちゃんに碧ちゃん。
おはよ」
少しは、皆と自然に話せているかな?
そんなことを考えていたら、椎菜ちゃんと麗眞くんに声をかけられた。
「理名ちゃんじゃん?
おはよ。
私服、理名ちゃんらしい、いかにもって感じだけど。
理名ちゃんには、そういう格好のほうが合ってると思うよ」
男の子に誉められるなんて初めてだったから、ほんのり顔が赤くなってしまった。
麗眞くんに褒められて照れていいのは椎菜ちゃんだけなのだ。
私ではない。
麗眞くんに小声でありがとうと言ってから、皆と一緒にバスに乗り込む。
後ろの方の席4つが空いていた。
そこに座って、碧ちゃんと椎菜ちゃんを窓側にしてあげる。
彼女たちは、その方が良さそうだ。
気管支や呼吸器が弱いことと車酔いは、何ら関係ないだろうが、外の景色が見渡すことが出来るので気が楽だろう。
私の隣は空席だが、気にしない。
なんなら座席の横の補助席でも座ってやる。
そう思っていた。
バスは終始賑やかだった。皆が楽しみなのは最終日のバーベキューらしい。
「バーベキュー楽しみだねー。
私たちだけでいろいろ、やろっか!
いちゃついてるカップルはほっといて!
まぁ、冗談だけどね」
なんて会話まで展開されている。
いいの?
私は、朝の電車の男の人のことが脳内にちらつき、あまり会話に集中出来なかった。
深月ちゃんが私の表情を何度か窺ったことから推測するに、彼女はそのことに気づいている。
いつ、この朝の出来事を皆に切り出せばいいのか、私は迷っていた。
迷うなんて、いつもの私らしくない。
さっさと言えばいい。
「朝、こんなことがあったよ」と言うような感じで。
そう思っていたのに。
なんで言えないんだろう。
結局、行きのバスの中では、仲間たちに切り出せなかった。
何度かの小休憩を挟みながら、6台ものバスは目的地である嬬恋高原へと到着した。