浮気彼氏から奪うオトコ。
○ 奪うオトコ ○
「俺はずっと見てたから…」
川岸を静かに歩き進める。
何1つ会話はしなかった。
でも、廣クンの手がとても温かかった。
沈黙を破ったのは、廣クンだった。
「…アイツと何話してた?」
「功クンと?たいしたことは話してないよ?」
「……そか」
少しだけむすっとしていたけれど、
それ以上は何も聞いてこなかった。
「廣クン……、もうそろそろ夏が近づくね」
「あと少しで文化祭と運動祭やるよな」
「そのための委員会があるんだから」
「一緒にやろうぜ、妃鞠」
“一緒”なんて言葉、初めて聞いた。
思わず涙が溢れそうになった。
―廣クンはずるいや……。
あたしを一瞬で好きにさせるんだもん。
「帰り…遅くなっていい?」
「え?」
「妃鞠と行きたいとこ、あんだよ」