【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
二、雨音が魔法を囁く。


朝から大粒の雨が降る、気持ちまでどんよりするあの日から2日が経った朝。


湿気のせいで纏まらない髪を1つに括り、御団子にした。
服は、デイビットさんにも言ったけど、可愛いものが無くて。

就職活動用のスーツを着た。


デイビットさんがいつ来られるか分からないけど、私は急遽、今日からお得意先の和菓子店『春月屋』に行く事になった。小さな頃から和菓子を買いに行っていた馴染みのお店。

本当は昨日行く筈が、急用ができたとかで1日延期されていた。

だから、もし彼が来ても会えない。

でもそれで良いのかもしれない。


化粧は社会人としてのマナーだからとファンデだけ塗ってみた。化粧してもそんなに変わらないんだから無意味に思えてしまうけど。



「行ってきます……」

お庭を掃いているお弟子さんたちに無理に作った笑顔を向ける。


遠くから母の琴が聴こえてくる。きっと美鈴の舞の指導だろう。
一昨日の朝までは、――卒業式の朝までは、私がそこで練習していたのに。


一ミリも未練を感じない私は、本当に自分が嫌になる。

未練を感じないのに、美鈴にも母にも会いたくないしも口を聞くのも億劫だった。
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