【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!



「まぁまぁこんなに大きくなられて」
「本当に助かるよ。社員が来月から休職予定でね。パートさん達じゃあ手が回らなくて」


暖簾を潜ると、ガラスケースに和菓子が並ぶ清潔な店内に、50代ぐらいのパートさん一人、レジの奥に立っていた。
そのパートさんが私を見るや否や面倒臭そうな顔で奥に入って行くと、此処を仕切る奥さんの小百合さんと、職人姿のおじさん二人が飛び出してきて、私を見て嬉しそうに笑ってくれた。


小百合さんは私が御使いで和菓子を買いに行っていた時と何も変わらない。上品に淡い色の着物を来て、優しい笑顔を絶やさない。

おじさんもいつもにこにこして、御使いを褒めてくれるから大好きだった。


この二人ならば……別に働くのも嫌ではない。

この二人だけなら、私も御使いを妹に譲る必要はなかった。



「今まで舞しか練習して来ていませんので、お仕事のお役に立つか分かりませんが、今日から働かせて頂きます……」

深々とお辞儀をすると、二人は孫を見るかのごとく優しい眼差しで頷いてくれた。

だけど。


「あいつ、なかなか来ねぇな。幹太(かんた)」

「!」

おじさんが呼ぶ名前に、私は息を飲む。

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