インセカンズ
金曜の夜に亮祐とホテルのロビーで待ち合わせした後、上層階のレストランで少し早目の記念日のお祝を兼ねて食事をした。

数か月ぶりに、ちゃんと顔を向い合わせた亮祐は、最初こそ、‘久しぶりだから、照れるな’と、緊張気味に繰り返したものの行動にぎこちなさはなく、緋衣が好きになった闊達な彼そのものだった。

話し上手な彼は終始、緋衣を飽きさせることなく話題を提供しながら、彼女の話にもきちんと耳を貸して時折質問してくれる。緋衣は、亮祐のペースにすっかり巻き込まれながらも、素知らぬ顔をしてこの場に同席している自分をどこか冷静に客観視していた。

食事の後はバーに場所を移して、23時を回った頃、彼が予約していた部屋で当たり前のように身体を重ねた。

情事の後、緋衣は心底ほっとした。

身体がちゃんと濡れてくれないかもしれないという焦りは、杞憂に終わった。大丈夫。今まで通りにやっていける。頭ではそう思うのに体の奥はまだ疼いて、隣りで眠っている亮祐に背中を向けると、自分の指先をそっと秘部に差し伸べて尖った突起を探し当てた。

目を閉じると、暗闇の中にぼんやりと安信の顔が浮かび上がり、彼のやり方を思い出しながら一心にそこを擦った。

亮祐が物足りなかった訳じゃない。
まだ知らなかった境地があることに気付いてしまっただけだった。
< 114 / 164 >

この作品をシェア

pagetop