インセカンズ
「残念。これでアズって線は消えちゃったのか……」

アミは少なからず応援していたようで肩を落とす。

「アズどうした? 今日口数少ないね」

食べ進めながら大人しく聞いているだけの緋衣に気付いて言葉を続ける。

「そうかな? そうなんだーって思いながら聞いてただけなんだけど」

「アズって、噂話とかあんまり得意じゃないもんね」

ミチルが隣りに座わっている緋衣を見る。

「そういえば、そうかもね。アズって、そういうところちょっと男っぽいよね」

アミはミチルの言葉に頷いた。

男っぽいと言われても嬉しくはない。緋衣は「せめて、サバサバしてるって言ってよ」とアミに言う。

「そう、それ。言葉が出なかっただけ。許して。はい、これあげる」

アミが取り皿に残しておいた生春巻きを「あげる」と言って緋衣の皿にのせる。

「いいよ。生春巻き好きでしょ、アミ」

「好きだけど、いいの。それにアズだって好きでしょ」

「じゃあ、お言葉に甘えて、いただくね」

応酬を続けるのもなんだしと、緋衣は甘辛いチリソースをつけてぱくりと一口で頬張る。すると、アミが残念そうな声を出す。

「ああ~。食べちゃった」

「だから聞いたのに」

恨めしそうな顔をするアミに、緋衣は頬を膨らませる。

「それ、同じのまた頼めばいいだけじゃない?」

呆れ口調のミチルが呼び鈴のボタンを押すとすぐに店員がやってきて、生春巻きひとつと、自分の分の生ビールのお代りを注文する。

「他に何かいる?」

「あ、じゃあ、私も生で。アズは?」

「冷たいウーロン茶ください」

「もう飲まないの?」

「もしミチルがつぶれたら、ヒデ君呼んであげなきゃいけないし」

「さすがに今日はちゃんとこれで最後にするから」

週初めという事もあり、三人は早めに切り上げる事にした。普段は月曜日から飲む事はないのだが、今回は安信の件もあって異例だった。
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