メランコリック
くそ、バカか俺は。
あいつが好きなのは杉野。
つーか、俺のこと好きだとして、なんで俺がそれに応えてやらなきゃなんねーわけ?

そんなこと考えながら、まだ手ェ動かして何やってんだよ。

でも、一度始めた妄想が止まらない。

藤枝はやっぱり処女だろうか。それなら、初めては優しくしてやらなきゃいけない。
キスも前戯も時間をかけて、たっぷり焦らして。
画面の女優に、初めての痛みに身を捩る藤枝の姿が重なる。
俺にしがみつく細い腕を想像して、暗い快感にぞくっとした。

そうだ、俺に捧げちまった方が、あいつにとってもいいはずだ。
既婚者の杉野なんかを初めての相手に選んで、抜け出せない泥沼になるなんて馬鹿げてる。

俺なら、最近はフリーだし、顔だって杉野よりずっとイイ。
俺と付き合えば、あの暗い無表情も、少しはいい方向に変わるに違いない。

……って俺は何を考えてんだ。

俺は藤枝なんか、大嫌いだ。

あんな陰気で女を捨ててるようなヤツは大嫌いだ。
俺が好きなのは、もっと髪色が明るくてふわふわしてて、顔もスタイルもぱっと華やかで、軽く話せて盛り上がれて……。
藤枝の細すぎる身体なんか、全然好みじゃない。黒い髪も、黒い瞳も、色味の薄い唇も、全然扇情的に感じない。

やめろ、こんな妄想やめとけ。

……俺は必死に自制し、脳内に別なエロ画像を滑り込ませようとしたけど、ダメだった。

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