こんぺいとう
「うちの祖父は…」
突然純が口を開いた。
「つまり秀次は、戦後日本へと戻って来たものの、生きて帰る事が罪悪感となり故郷へは帰れなかったそうです。自分が生きているために、家族が後ろ指をさされるのが耐えられないと…今考えれば馬鹿な事をした。だけど今さら帰れないと言っていました。祖父は亡くなる直前まで、戦死した方への慰霊を続けました…」
そこまで言うと純は黙ってしまった。
文子がそっと純の肩に手をまわすと、
「秀次君が生きていてくれて良かった…きっと雄治さんが私達に教えてくれたのね。生きて日本に帰ってくるのが恥だって言われていた時代、秀次君はきっと辛かったと思う…ご両親は、きっとどこかで生きているってずっと信じていたわ。だけど本当に良かった…あなたのようなお孫さんをもって、秀次君は幸せだったわね。ありがとう」

文子は優しい笑顔で純を抱きしめた。

戦争はあり得ない事が正しくなり、悲惨な事が現実となる。
家族と一緒にいたいだけなのに…
笑って過ごしたいだけなのに…
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