水平線の彼方に( 上 )
Act.3 同窓会
三月三十一日
同窓会は、地元に昔からある、焼き鳥屋兼居酒屋の『とんぼ』という店であった。
出席しようと、早くから店の前に着いてはいたものの、いざとなったら勇気が出ず、ずっと引き戸の前をウロついていた。

(出ようって決めたんだから、思いきって入ろうっ!)

考えた挙げ句、十分くらい経って、ようやく戸口に手をかけた。
右にスライドしようとして、力を入れたら、思ってた以上に勢いよく戸が開いて、びっくりして手を引っ込めた。

(えっ…⁉︎ )

チェックのシャツを着た男性が中から顔を出し、こっちを向いた。

「あれ…?」

同じくらいの年齢の人、何となく、見覚えがある。

「……花穂ちゃん?」
「…平井君⁉︎ 」

数年ぶりの顔合わせ。黒縁のメガネに、天然パーマのかかった前髪。変わらない、優しい顔立ち…。

「うわー、久しぶり‼︎ 元気だった⁉︎ 」

喜ぶ彼に合わせて、笑顔を見せなきゃ…と思うけど。

「うん…まぁ…」

ぎこちないスマイルに歯切れの悪い答え。でも、平井君は深追いもせず、私を店内に招き入れた。

「おっ!来たか」

名簿とにらめっこしているノハラがいた。心なしか、ホッとする。
二人に案内されながら、奥にある座敷に向かう。

「おーい、一人追加!」

ノハラの声に、皆がこっちを向いた。
長テーブルに着いている同級生、ぱっと見て二十人くらいが、一斉に声をかけてきた。
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