スセリの花冠
「ひとりのお方を一途に愛するというのは、なんと素晴らしい事なのでしょう。ねえ、大国主命様」

案の定、居心地が悪い。

大国主命はぎこちなく微笑むと、優雅に踵を返した。

「須勢理は花冠などかぶらずとも美しい。だが、あれがあると尚のこと魅力が増す。近々、私が花を摘んでこよう」

「ありがとうございます。須勢理は楽しみに待っております」

言うや否やそそくさと退散するその背中を、須勢理姫は見えなくなるまで愛しそうに見つめていた。


****

愛世は馬上でディアランの腰に両腕を絡めた。

頬を寄せるとディアランの体温を感じ、愛しい気持ちが益々強くなる。

「着いたぞ」

屋敷へと到着すると、愛世はディアランに馬から下ろされ、再び抱き上げられた。

「ディアラン、私、歩くわ」

「俺がこうしたいんだ」

「だけど」

額が触れ合う距離で甘く微笑んだディアランに、愛世はなす術もない。

「俺のわがままに付き合ってくれ」

ディアラン……。

「……分かった」

恥ずかしくて頬が熱い。

なのに胸がいっぱいで泣きそうになる。

私は今……幸せだ、すごく。

愛世はディアランの首に腕を絡めると、その幸せを噛み締めるかのようにキュッと両目を閉じた。
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