躊躇いと戸惑いの中で
ボトルのワインもすっかり飲み干し。
乾君のお腹もしっかり満たされ、私たちは店を出ることにした。
「ありがとうございました」
入る時に案内をしてくれた男性店員さんが、飛び切りの笑顔つきで出口まで見送ってくれる。
「また、来ますね」
「宜しくお願いします」
笑顔で送られて外に出ると、乾君が直ぐに手を繋いできた。
「あんまり愛想よくしないで」
「え?」
あれ。
また焼きもち?
ふふなんて、含み笑いをしていたら、強引に手を引いて歩き出す。
子供みたいなんて私のことを言っていたけれど、乾君こそ、まだまだ子供だよ。
グイグイと私の手を引いていた乾君の歩が、少しばかり行ったところで緩んだ。
「沙穂が淹れてくれたコーヒーが飲みたいな」
少しだけ甘えるような口ぶりで、私の顔を窺っている。
彼の手に引かれる私は、子供みたいな焼きもちに頬が緩んだままだった。
こんな風に少しの焼きもちと、少しの気恥ずかしさが幸せ指数を上げていく。
愛されているっていう実感は、酔っている私の胸を高揚させていった。