躊躇いと戸惑いの中で


ボトルのワインもすっかり飲み干し。
乾君のお腹もしっかり満たされ、私たちは店を出ることにした。

「ありがとうございました」

入る時に案内をしてくれた男性店員さんが、飛び切りの笑顔つきで出口まで見送ってくれる。

「また、来ますね」
「宜しくお願いします」

笑顔で送られて外に出ると、乾君が直ぐに手を繋いできた。

「あんまり愛想よくしないで」
「え?」

あれ。
また焼きもち?

ふふなんて、含み笑いをしていたら、強引に手を引いて歩き出す。
子供みたいなんて私のことを言っていたけれど、乾君こそ、まだまだ子供だよ。

グイグイと私の手を引いていた乾君の歩が、少しばかり行ったところで緩んだ。

「沙穂が淹れてくれたコーヒーが飲みたいな」

少しだけ甘えるような口ぶりで、私の顔を窺っている。
彼の手に引かれる私は、子供みたいな焼きもちに頬が緩んだままだった。

こんな風に少しの焼きもちと、少しの気恥ずかしさが幸せ指数を上げていく。
愛されているっていう実感は、酔っている私の胸を高揚させていった。


< 132 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop