躊躇いと戸惑いの中で


マンションに着き、エレベーターのボタンを押して箱に乗り込んでも。
家のドアを開けるために鍵を探していても、乾君と繋いだままの手は離れることなくそのままだった。

「ねぇ。探しにくいよ」

私のバッグを乾君の空いた手が持ち。
その中にある鍵を、私の空いた手が探す。

「なんか、ゲームみたいじゃん」

乾君も酔っているのか、面白そうに私が鍵を探し出すのを楽しんでいるみたいだ。

「あった」

財布の下敷きになっていた鍵を引っ張り出して、ようやくドアを開けた。
ヒールを脱ぎ明りを付けようとスイッチに手を伸ばしたところで、その手を取られ壁に体を押し付けられる。

「あの店員と仲良くしちゃダメだよ」

イタズラに笑った乾君が私にキスをする。
一瞬唇が離れた時に、いい訳をさせてもらった。

「相手は営業だよ」
「それでもダメ」

言ってまた唇を合わせる。

どうやら、店員さん相手でも愛想を良くしすぎるのは、お気に召さないらしい。

角度を変えて舌を絡め取られ、アルコールに侵された体が熱を持つ。

「沙穂は魅力的だから。あの店員に言い寄られたら困る」

唇を離しおでこをくっつけたまま、乾君はまたイタズラに笑う。

「大丈夫。自信持って」

励ます私の素振りに年上の余裕を感じたのか、イタズラに攻め立てるようにしていたキスが終了。
もう少し、じらせばよかったかな。
なんて、心の中でチラリと舌を出す。


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