躊躇いと戸惑いの中で
距離





     距離 






あの日以来、聡太の態度が変わってしまった。

あれほど頻繁だったメッセージは、業務報告ぐらいでしか来なくなり。
社内では、用事がない限りただ挨拶を交わすだけ。

仕事中なのだから、本来ならそれが当然のことなのだけれど、今までが今までだっただけに避けられているんじゃないかと思えてならない。
自分でそうしよう、と提案したことなのに、寂しくて気持が萎えてしまう。
仕事終わりに一緒に帰ることもなくなり、休みも用事があるとかで逢えずにいた。

そんなある日、残業がひと段落して帰り支度をしていると、誰もいないフロアに聡太が来て声をかけてきた。

「ねぇ、沙穂」

社内で沙穂と呼ばれるのは、裏の駐車場でキスをされた時以来だった。
そして、久しぶりにそんな風に話しかけられたことと、誰もいないと思っていたこととで気持ちが油断していた私は驚きに息を呑んだ。

「そんなにびっくりしなくてもいいじゃん」

そう言った聡太の瞳が伏せられる。

「どうしたの?」

不意に現れた聡太に、声が震える。

ちゃんと話をしなくなって寂しく思ってはいたけれど、突然すぎてどんな顔をしていいのか判らなかった。
話せて嬉しい気持ちと、河野との事が気がかりで恐い気持ちが行き来する。

「お願いがあるんだ」

そういって、聡太が玄関へ向かって歩き出した。
その背中を私も追う。


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