躊躇いと戸惑いの中で


乾君のお弁当をぶら下げて本社へ戻ると、河野が昼間新店に行くといって乗って行った車が、駐車場に戻っていた。

「河野、帰ってきたのかな?」

カサカサと袋を揺らして、フロアに踏み込んでみたけど姿がない。

倉庫かな?

商品が大量に保管されている倉庫に居るのかもしれないと、そっちへ向かう。
案の定。
重いドアを押し開ければ、中で商品を選別しているような河野の姿があった。

「おつかれー」

奥に居る河野に大きく声をかけた。

「おう。まだ居たのか」
「悪かったわねぇ。これでも一応、色々とお手伝いをしていたのよ。大体、河野のエリア廻ってあげたの、私だからね」

わざと恩着せがましく言ったら、はいはい。と軽くあしらわれてしまった。

もうっ、なんて不貞腐れながら近づいて行くと、河野は私が手に持つものに興味を惹かれたみたいだ。

「おっ。それ、弁当? 気が利くじゃん」

河野がお弁当の袋に目をとめて手を伸ばしてくる。

「ああっと。これは、違うの。河野にじゃなくて、乾君の」
「なに。碓氷、乾のぱしり?」
「あのねぇ~」

呆れて、こぼすと笑っている。

「本社に一人残って作業任されてて、食事もしていないみたいだったからね」
「随分と乾には優しいじゃん」

なんとなく含んだ言い方が気に障る。

「ああ。そういえば、梶原軍団、全員でPOPの設置作業してたなー。なんだ、あそこに乾は来てなかったのか」
「本社に残って、次々に頼まれものを作成してるよ」
「そりゃ、すげえ。俺の見る目は、間違ってなかったってことか」

河野のは、うんうん。と頷き、自分の力を再確認でもするように、悦に入っている。


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