躊躇いと戸惑いの中で


「おつかれー」

細身のドアを開けてバックヤードの店長へ声をかけると、パソコンの前に座っていた木下店長が眠そうな顔でこちらを見た。

その顔を見れば、どうやら夜勤明けの連勤なのだろうと思わせる。
きっと、突然シフトに穴でも開いたんだろう。
穴埋めで店長が連続して店に出るというのはよくあることだけれど、社長に知られたら部下の教育がなっていないと叱られるだろう。

「なんだよ。碓氷か」
「私じゃ不満ですか」

一つ上に当たる木下店長は、刑事じゃないけれど現場一筋のタイプだ。
一度本社勤務を命じられたのを断ったことがあると、噂で聞いたことがある。

「まあまあ、不満かな。新人の可愛子ちゃんが備品届けてくれるんじゃないかと期待してたのによ」
「新人でも可愛子ちゃんでもなくて、悪かったわね」

だいたい、私の下に新人は入ってないし。

何でこんな忙しいのに、誰も下につけてくれないのよ、なんて以前河野に愚痴ったところ。
碓氷だけで仕事が回ってるからじゃねぇの? なんて、言われ、返す言葉もなかった。
出来る女ってこと? なんて期待の目を向けたら、シラーっとスルーされたっけ。

それは、いいとして。

「拗ねるなって」

不満顔の私を見て、木下店長が笑っている。

そうさせているのは誰よっ。と喉元まで出かかったけれど、木下店長の後ろに河野の姿を認めてその言葉を飲みこんだ。

「あれ? 河野も来てたの?」
「おう。一応、俺の担当エリアだからな」

それもそうか。


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