義兄(あに)と悪魔と私
君のための嘘
 
誰もいない家に帰って、リビングの冷たいソファに横になる。不思議と夏の暑さは感じなかった。

一人冷静になってみると、どうしようもない虚無感に襲われる。
まだ母に対する答えが出たわけではない。けれど、それは限りなく黒く見えた。

おじさんも、母も。この家の全てが嘘に見える。
普通の幸せが欲しかった。
ただそれだけだったのに、どうして。

もう何も知らなかった頃には戻れない。
この先に未来がないと気づいていても、進むしかなかった。

ふと、リビングの壁掛けカレンダーが視界に入る。
先週末から来週末まで、カレンダーにつけられた印を見て、おじさんが出張中であることをぼんやりと思い出した。

よくあることだ。おじさんは仕事が忙しく、家に帰らない日も珍しくない。
それでも、母に対する嫌悪は増した。
 
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