「あの!」

思わず声をかけた。
女性は振り向いて瑛太を見た。
緊張で段ボールを持つ手が震える。段ボールを地面に置いてもまだ震える手を誤魔化すため、制服のエプロンの裾を握り締めた。

「あの、あの…」

声をかけたはいいが、何を言えばいいのか言葉が出てこない。

「何か?」

「……何かお礼を…」

「いや、いいですそんな…」

「お礼がしたいです!」

「いやほんとに…いいですから…」

暗くてよく見えないが、恐らく今女性は困った顔をしている。

当たり前だ。いったい俺は何を言ってるんだ。

自分で言って、瑛太はすぐに後悔した。これではただのナンパだ。

しかし言ってしまったものはしょうがない。

「俺、中山っていいます。よければ…ご飯でも行きませんか?」

勢いのままに瑛太は駄目元で言った。

「あの…」

女性は言葉に詰まったようで、ただ瑛太を見つめる。明らかに困らせている。
勢いはもう続かず、瑛太は恥ずかしさの限界に来た。

「すいません、いきなり…困りますよね」

咳払いを一つすると

「本当にありがとうございました。またお店に来て下さい…」

それだけ言うのが精一杯で、段ボールを抱えると早足で倉庫まで歩いた。
女性がどんな顔をしているか見るのが怖くて、一度も振り返ることができなかった。



もうあの人はお店に来てはくれないだろう。
それどころか変質者として本社に苦情がくるかもしれない…
そんなことになったら恥ずかしすぎて、もうあの店にもいられなくなる…

瑛太は最悪の想像をしながらノロノロと段ボールの中身を倉庫の棚に置いていた。

「中山くん遅かったね。大丈夫?」

倉庫の入り口から相沢が瑛太に声をかけた。

「うん…ちょっと重くて。先帰っていいよ。俺事務所の鍵かけとくから」

「ありがとう。お疲れー」

「お疲れ様」

相沢の履いているパンプスのカツカツとした音が遠ざかると、瑛太は深い溜め息をついた。





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