課題に苦戦して睡眠不足の瑛太は、朱里からLINEのメッセージがきたときは寝ぼけているのかと思った。

『会って話がしたいけど、時間ありますか?』



あー…ついに別れ話だ



そう思えるくらい突然であっさりしたメッセージに返信することができなかった。

朱里と別れたら自分はどうなるだろう…
あの楽しかった時間はもう味わえない。
朱里の存在を知ったバイト先のカフェに行くのも辛くなってしまう。

様々な思いが交錯して返信せずにスマホを投げ出し、朱里を意識の中から閉め出した。











「そろそろ部長と支配人が来るから、フードメニューは見た目を完璧に。あと声出しは意識してね」

店長に数十分毎にうるさく言われ、瑛太はうんざりしていた。
本社から上司が来る度に店長は毎回挙動不審になる。
相沢と顔を見合わせては、また始まったよと目で会話をした。

夕方になり、部長と支配人が来店した。
先日販売を開始した新商品の視察に来たのだ。
狭いカウンター内に瑛太を入れて男四人が並ぶ異様な光景に、来店した客が引いたのが分かる。
その状況に耐えられず

「俺ラウンドしてくるよ」

と相沢に告げると瑛太はダスターを持って店内を巡回する。
空いているテーブルを拭いて回り、床にゴミがないかチェックする。
一通り見て回ると、再びむさ苦しいカウンターに戻り何気なく店の外を見た。

店の前に立つ朱里が視界に入った。

瑛太はまた睡眠不足で幻覚を見ているのかと思うほど、改札がボヤけ朱里の姿だけが鮮明に映った。

瑛太は今確実に朱里と目が合っている。

いつものように手を振りたい衝動に駆られ、すぐに今の状況では無理だと思い止まった。
今はタイミングが悪い。上司の前で軽率な行動はとれない。

せっかく朱里が来てくれたのに…

接客の合間に朱里を見る。
まだ改札の前で瑛太を見ていた。
瑛太は今すぐにでも朱里のところへ行きたかった。

そんな瑛太の様子に無視されたと思ったのかもしれない。
朱里は店に入ってくることもなければ手を振ることもなく、店の前から離れていってしまった。

「中山くん、彼女さんが…」

「いいから」

相沢も朱里が気になっていたのだろう。タイミングの悪さを恨んだ。











「お疲れ様でしたー」

交代の先輩が来ると瑛太は急いで店を出た。スマートフォンを出して朱里に電話をかけた。

『もしもし…』

「朱里さん」

数日振りに聞く朱里の声だった。

「今日ごめんね、来てくれたのに」

『うん…』

「今から会える?」

『今?』

「朱里さんちの駅まで行くから、待ってて」

『うん。待ってる…』

通話を終えると、たった今ホームに到着したばかりの電車に飛び乗った。




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