「朱里さんの前でかっこつけても、結局朱里さんの方が気を遣ってるよ。俺かっこわりー…」

変わらず朱里に背を向けながら瑛太が呟いた。

「朱里さんより年下なのを気にしてるのは俺の方でした。俺が悪いのに自分から謝れなくて…ほんと情けない…」

「そんなことないよ。私のこと気にかけてくれてありがとう」

瑛太が振り返り朱里を見つめた。

「先に謝らせちゃってすいません。朱里さん、ごめんなさい」

「うん…」

朱里の目から堪らず涙が流れた。

「わっ、朱里さん泣かないで!」

「ごめっ…だって、中山くん…今日手振って…くれなかったから…」

「ごめんね、本社からえらい人来てて、あの時は手を振れる空気じゃなかったんです」

瑛太は朱里に近づき、俯く朱里の顔を覗き込んだ。

「来てくれて嬉しかったよ」

「ごめんね、仕事中にお店の前に行ったりして…」

「平気。もう謝らなくていいよ」

瑛太の腕が朱里を包んだ。突然のことに朱里の体が強張る。

「ぎゅってしていい?」

「うん」

朱里の体が小刻みに震えた。

「嫌だった?」

「違うのっ…中山くんと別れちゃうかもって…思ってた」

「実は、俺も」

ふふっと二人で笑った。

「俺、朱里さんの真面目なとこ好きだよ」

「中山くんのその素直な言動が照れるから…」

「朱里さん、キスしていい?」

「許可取らなくてもいいよ」

瑛太の顔がゆっくりと近づき朱里の唇に触れた。
先程飲んでいたコーヒーのほろ苦い味がした。
数秒のキスのあと唇が離れて見つめ合い、また二人で笑った。
瑛太が額を朱里の肩に載せた。

「照れる…」

耳元で聞こえる瑛太の呟く声がくすぐったかった。

「朱里さん」

「何?」

「俺のこと下の名前で呼んでよ」

「瑛太…くん?」

朱里のぎこちない声にフッと瑛太が笑った。
ずっと『中山くん』と呼んでいた。
下の名前で呼ぶことはより一層距離が近づく気がして嬉しかった。




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