この数週間仕事が忙しくなったこともあり、あの日以来駅のカフェには行けないでいた。
改札を通り目の前のカフェを見る度にあの出来事を思い出しては恥ずかしくなる。
ガラス張りのカフェの中からは改札が丸見えだろう。
あの子が中にいるのかは見えないけれど、目が合わないようになるべくお店の方を見ないようにしていた。

ナンパ…と言っていいのだろうか。
親切にしたら食事に誘われたなんて他になんと言えばいいのだろう。
思えば数年ぶりのナンパだ。

学生の時以来だな…

ガラパゴス携帯からスマートフォンに変えようとしているときにナンパされたことがあった。
恋愛対象になりえない軽いノリの男に番号を聞かれ、そのうち解約する番号を教えて友人に笑われた。
その頃付き合っていた彼氏とも就職活動中にすれ違うことが増え、大学を卒業する前に別れてしまった。
今では異性と食事なんて会社の飲み会ぐらいになってしまった。











会社に戻る電車の窓から夕日を見ていた。
先ほどまで降っていた激しい雨が止み、空は綺麗なオレンジ色になっている。

降りる一つ前の駅で電車が停車しドアが開いた。
ドアに近い吊革に掴まって立っていた朱里は、乗ってきた男と目が合い一瞬息が止まる。

目の前に立ったのはあの時食事に誘ってきた中山だった。

「あ…」

中山も驚いて目を見開く。

「こん…にちは」

「どうも…」

気まずい空気が流れてすぐにでも離れたかったが、それなりに混んでいる車内で移動するには遅すぎた。電車は動き出してしまう。
中山も迷った末に朱里の前の手すりに掴まった。

「この間はありがとうございました…」

「いえ…気にしないでいいですよ」

「…………」

「…………」

気まずい時間だった。
早く駅に着いてほしいと朱里は強く願った。

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