Sugar&Milk

十分避けられる速さで下りてくるとはいえ驚いてしまう。私はガラスの壁から離れ、頭上から下りてくるシャッターを頭が真っ白になったまま見つめた。スプレーで描かれたサンタは金属の板に隠されてしまった。
私がここにいることを拒絶されたような気がして、モヤモヤしたまま振り返って改札を抜けノロノロと階段を下りてホームに立つ。タイミングよく電車が到着して乗り込んだ。

山本のために瑛太くんにあの子のことを聞くなんて気が重い。瑛太くんとの時間に話題に出したいとは思えない。
私にわざわざ話しかけてくるくらいだから、きっと瑛太くんに対しても積極的なのかもしれない。同じ学生、同じバイト。おまけに容姿も可愛かったな。年下のはずなのに、あの子がすごく怖い。

不安な気持ちが抑えきれなくなってカバンからスマートフォンを取り出した。そうして瑛太くんに『部屋に行ってもいい?』とメッセージを送った。既読になってから返信が来るまでの時間が長く感じる。付き合いは慎重にしなきゃと思ったばかりだけど、会いたくて堪らない。

『大歓迎。待ってます』

短い返信でもほっとして、電車が止まると勢いよく飛び出した。瑛太くんの家の最寄り駅が一駅でよかった。

一度しか歩いたことのない道を早足になる。瑛太くんのアパートが見えてきた。

「朱里さん!」

アパートの部屋から出てきた瑛太くんは私の顔を見て笑顔を向けてくれる。

「遅い時間にごめんね」

「大丈夫。来てくれて嬉しい」

そう言って近づく私を抱きしめた。夜の住宅街とはいえそれなりに人はいるのに堂々と抱きしめてくる大胆さが今は嬉しい。

「疲れてないですか? 今日も残業だったんでしょ?」

「うん……でも大丈夫。瑛太くんに会えたら疲れ飛んだ」

「ならよかった」

瑛太くんは体を離すと私の手を取って部屋に引いていく。
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