「これから会社に戻られるんですか?」

中山から話しかけてきて恐縮してしまう。

「はい…」

「俺は今からバイトです」

では電車を降りてからも改札までは一緒に歩かなければいけない空気じゃないか…

勘弁してほしいと心から思った。

「あの、困らせてすいませんでした」

「いえ…」

あの時のことは話題にしたくなかった。なるべく話しかけてほしくはない。

「気を悪くしたならすいません」

「いや、とんでもないです…」

そんなに謝らなくてもいいのではないか。
誘いに乗らなかった朱里の方が悪いことをした気になってしまう。

横目で中山を見ると顔を赤くしていた。
意外な反応に朱里は中山を可愛いと思った。
この子は感情がすぐに顔に出るのだろう。

あの時は突然のことで恥ずかしさが勝ってしまったが、落ち着いて考えてみると中山は朱里に好意を抱いてくれたと思っていいのだろうか。

笑顔が印象的だが、真顔でも中山はイケメンと言われる部類だろう。
だから尚更、なぜこんな子が朱里なんかに、と思ってしまう。



次の停車駅を告げるアナウンスが車内に流れる。
電車が停車し降りると改札まで中山と二人無言で歩いた。

「じゃあ、私こっちなんで」

朱里は会社の方向へ体を向けた。

「あ、待ってください」

また中山に呼び止められ、朱里はびくりと足を止めた。

「あの…この間は突然でびっくりしたと思うんですけど、俺は前からお店に来てくれてるお客さんだって知ってて、ずっと覚えてて、だからその場の雰囲気で誘おうと思ったわけじゃないっていうか…」

中山ははっきり分かるほどに緊張し始める。
その様子に朱里も落ち着かない。

「あの時手伝ってくれて嬉しくて、チャンスだって思って…その…」

またも中山の顔がみるみる赤くなっていく。

「もう一度ご飯に誘ったら、今度は返事聞かせてくれますか?」

今度は朱里の顔が赤くなる番だった。
こんな誘われ方は何年振り、いや初めてではないか。
戸惑っているが一生懸命な態度の中山を見て嬉しいのも事実だった。
もう少しだけこの子と話をしてみたいと思った。



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