Sugar&Milk





年末という感覚だけで日付も曜日も意識しなくなるのは毎年のことで、疲れていたりスマートフォンをいじるのに夢中になっていると店から自宅の最寄り駅までのたったの1駅を気づかず乗り過ごしてしまうことが何回かあった。
降りるはずの駅を過ぎてしまったことに気づくと、気持ちは自然とその先の朱里さんの家に行きたいと思ってしまう。
突然会いたいなんて言ったら困らせることは分かっていた。だから顔を見たらすぐに帰ろう。

『今から少しでいいから会いたい』

そうLINEを送り朱里さんの自宅の最寄り駅で降りる。ホームの壁に寄り朱里さんからの返信を待つ。すぐに既読にならないからまだ帰っていないかお風呂に入っているのかもしれない。
やっぱり遅い時間に無理に会うのはやめた方がいいかもしれないと悩みながら乗ってきた電車がホームを出ていくのを見送ると、反対側のホームに立つ人が目に入った。
向かい合って立つ二人のうちの一人が朱里さんだと気づいた。こんなに近くにいて嬉しい気持ちはその横に立つ男を見て一瞬で消え去る。相手の男は同僚でもない知らない男。
お互い何やら真剣な顔で見つめあっている。その姿に無性に腹が立ってどんな話をしているのか知りたくなる。耳を澄ましても会話が聞こえてくるほどの距離じゃないし、駅員のアナウンスがさらに邪魔をする。

ねえ、その人誰? 俺の会いたいってメッセージに気づかないほど大事な話をする男?

「朱里さん!!」

思わず名を叫んだ。
ああもう……嫉妬ばかりの自分が嫌になる。



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