Sugar&Milk
「来年昇進の話をもらって今後の自分の人生を考えたときにさ、朱里の顔が浮かんだんだよね」
もう笑顔を作れなくなる。浩輔は本当に冗談を言っているわけではない。
「俺たち就職してだいぶ落ち着いてきたよな。あの頃考えられなかった可能性をまた考えてみた」
「可能性って?」
「結婚とか。そういう相手は朱里しか思いつかなくて」
予想外のことに動揺する。そんな可能性を残すような終わり方じゃなかったのに。
「……私今彼氏いるんだって。無いよそんな可能性は」
「全くない?」
「ない」
本当に今更だ。別れようと言ったあの時にお互いの仕事を考慮したり状況を思いやることをしなかった。年齢を重ねて仕事で自信がついても、私はもう浩輔に可能性を見いだせない。こうして突然一方的に話を押しつけるところが嫌になったから未練もなく別れられたのだと思い出す。
「正直に言うけど本当に困ってる。今日は少人数の女子会だったのにいつの間にか人数増えるし、浩輔に会うこともないと思ってたのに来て驚いてるし、みんなに復縁とか言われて余計なお世話で心底疲れた」
疲労感と嫌悪感で怒りをぶつけてしまう。私の言葉で浩輔も苛立ったのが分かった。
「朱里さん!!」
突然大声で呼ばれて顔を向ける。ホームの向かいにいるはずのない人物がいて息を呑んだ。
「瑛太くん?」
私に向かって大きく手を振る瑛太くんは必死な顔をしている。びっくりして動けない私が手を振り返せないでいることで焦っているように。
「知り合い?」
「まあ……」
浩輔に今この状況で彼氏だと言いたくなくて煮え切らない返事をしてしまう。