Sugar&Milk
「今から会いたいって送った」
「そうなの?」
「だからもう行こう」
そう言うと瑛太くんはいきなり私の手首を取って引っ張る。
「あっ」
強引に浩輔から引き離す瑛太くんの顔を後ろから覗き込むと口をキュッと結んで不機嫌そうだ。振り返ると浩輔も唖然として電車のドアが開いても動けないようだ。私は浩輔から顔を逸らして前を向く。「さようなら」も言えなかったけれどこれでいい。今大事なのは怒っているかもしれない瑛太くんだ。
「瑛太くん?」
「朱里さんの家はこっちでいいんだよね?」
改札を出て南口の案内板を指さす瑛太くんに私は小さな声で「そうだよ」と返す。
「朱里さんの家まで送る」
「いいの? バイト帰りで疲れてるでしょ?」
「朱里さんに会うと疲れ感じないから大丈夫」
「そっか」
まだ機嫌悪そうな顔をしているから掴まれたままの手首を解くと指同士を絡ませた。その行動で少し冷静になったのか「突然引っ張ってごめんなさい」と呟いた。
「大丈夫だよ」
「あの人知り合いだったんでしょ? 俺のせいで微妙な別れになったよね」
「そこまで気を遣う相手じゃないから気にしなくていいよ」
「もしかして元カレ?」
直球で聞かれて誤魔化すのも誠実じゃない気がして正直にそうだと伝える。
「今日大学の友達と飲んでたら勝手に友達が呼んで……駅まで送ってもらったの。でもそれだけだから。ろくに話さなかったし」
口が勝手に動く。まるで言い訳するかのように。
「うん。気にしてないから大丈夫」
それは嘘じゃん、と言いかけて口を閉じる。本当は気にしているのに私を責めないように言葉を選んで我慢しているように見えたから。だから私は話題を変えた。
「瑛太くんに会えて嬉しい。来てくれてありがとう」
「遅い時間に突然ごめんね。でも来てよかった」
「そうだね……」
限られた時間の中で会えて嬉しい。でも今夜は来てほしくなかったなんて、この年下の恋人には言えない。