Sugar&Milk

俺が毎日必死に朱里さんの気を引こうとしている小さい男だなんて、相沢は思っていないだろう。

好きな人とは向き合うって決めた。関係がこじれても突然目の前から消えたりしない。

初恋だった中学の同級生は気持ちを伝えられないでいるうちに転校してしまった。初めて付き合った高校の同級生には「好かれている気がしない」と振られた。去年付き合っていた彼女は大学の先輩と浮気した。彼女の部屋から出てきた先輩とキスしているのを見てしまったら、彼女たちを責めるどころか俺は逃げた。裏切られていた怒りやショックから向き合うことを放棄した。距離を置いて連絡を一方的に絶った。当時は恋愛に本気じゃなかったんだと自分を無理やり納得させていたけれど、今では後悔しか残っていない。

どれくらい好きなのか、どれくらい大事にしているのか、照れくさくてきちんと言葉にしなかったことを反省した。だから好きだって思った相手に出会えたら隠さず真っ直ぐに伝えようって思った。言葉で、態度で。恋人の気持ちもきちんと感じ取れるようになるんだ。










『店の前で待ち合わせで。今着替えてるから待っててください』

相沢と閉店作業を終えて朱里さんにLINEする。

「彼女さんに連絡?」

着替え終わった相沢は朱里さんからの返信を待つ俺を呆れながら見てくる。

「そう。この後ご飯行くから」

「今から? もう遅い時間なのに?」

「この時間しか会えないんだ。あっちも今仕事終わったばっかりみたい。それにお互い明日休みだし」

「それは良かったですね」

「少しでも会いたいんだって」

「人の恋愛事情に興味なーし!」と相沢は冷たい言葉を発して靴を履き替える。
事務所の鍵を閉めたことを確認すると相沢と階段を上って待ち合わせしている改札前に行く。朱里さんは先に着いて店の前で待っていた。

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