Sugar&Milk

「朱里さんって普段から料理するんですか?」

突然話題が変わったことに驚く。やっぱりこの話は嫌になったのだろうか。

「うん。自炊するよ。私も瑛太くんと同じで大学から上京したから一人暮らしは長いし」

「今度食べてみたい。朱里さんの料理」

「えー、朝ご飯程度ならいいけど、美味しいかは自信ないな……」

「絶対美味しいと思う」

「ハードル上げないでよ」

誰かに振舞えるほどの自信はない。でも瑛太くんの家の鍵をもらったら作ってあげたいと思うようになるのだろうか。



◇◇◇◇◇



約束通り年末を瑛太くんの部屋で過ごす。持ち込んだ私物がたった数日で増えていった。これではまるで同棲しているみたいだ。用意されていた合鍵を受け取ると特別な重みを感じる。

「今まで誰かに合鍵渡したことある?」

「ないよ。持っているのは親くらい」

「親……」

学生の部屋の合鍵を保護者に承諾を得ず受け取ることに罪悪感を覚える。

「あの……瑛太くんのご両親にご挨拶した方がいい?」

「必要ないよ。親も滅多にこっち来ないから大丈夫」

「でも……」

学生と付き合うことの責任を今ほど重く受け止めたことはない。私はこの鍵を持つ資格はあるのだろうか。

「報告しなきゃいけないタイミングが来たらきちんと言うから。朱里さんは気にしないで。重くも取らないで」

「うん……」

「映画に集中しよ!」

床に寝転んだ瑛太くんが手を広げて私を呼ぶ。甘えてくる彼に甘えたくて私も瑛太くんの前に横になる。体を腕に包まれるとリモコンで再生ボタンを押した。
去年大ヒットしたSF映画を配信サイトで見ながら私の髪をいじる瑛太くんの手の動きに身をゆだねる。今は私たちの年齢差も、立場も、何もかも忘れていられる穏やかな時間だった。







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