Sugar&Milk

「本当にごめんなさい……今夜はもう帰ります」

そう言ってゆっくりと玄関まで行くと靴を履いて部屋から出た。一度も振り返ることができなかったし、朱里さんも引き留めることも追いかけてくることもなかった。
本当に……なんてことをしちゃったんだ……。
正常な思考回路ではなかった。こんな風に話したかったわけじゃない。くだらない嫉妬をぶつけて情けない姿を見せたかった訳じゃない。

信じられなかった。俺への気持ちを疑ってしまった。自分だけが好きな気持ちが大きいことが不安だった。いつか朱里さんは俺から離れてしまうんじゃないかと怖かった。けれど朱里さんを離してしまったのは俺だ。



◇◇◇◇◇



LINEの画面を開いたまま眺めるだけの時間が増えた。メッセージを入力しては消してまた眺める。スクロールして過去の朱里さんとのメッセージを読み返しては落ち込んでスマートフォンをベッドに放り投げる。ここ数日の俺の行動だ。
謝りたくても言葉が中身のない薄いものになりそうで顔を見ないでの連絡手段を諦める。カフェに来てくれることもなくて、ずっと外を見ているわけでもないから改札を通ったかすらも分からない。
当然朱里さんからの連絡はなくて、『自然消滅』という言葉が頭をよぎる。距離を置いた方がいいってどのくらい? 俺はいつになったら朱里さんに謝れる?

LINEの通知音に慌ててスマートフォンを拾うと、メッセージは期待した相手からのものではなくカフェスタッフのグループLINEへの通知だった。
店長から『事務所の連絡ノートをよく読んでから勤務すること』と連絡が入った。こんなメッセージは初めてで、店長の上司も招待されているグループLINE上では伝えにくい内容なのかと不思議に思った。

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