東雲沙紀の恋の事件簿―見合い編―
お見合い当日、土曜日。


早朝から母親が気合いをいれて着物を着付てくれて、今は生活安全課の課長と一緒に見合い会場のウエストパークホテルにいる。

待ち合わせの場所はホテル内の料亭の個室で、私たちが先に部屋に通された。

さっきから課長は何度も水を飲み、落ち着きがない。

「課長、飲み過ぎです」
「こういうのは慣れてなくてね」

私だって慣れないですよとは突っ込まず、部屋の時計を見ながら相手がくるのを待つ。

 (南山のお見合い、相手はどんな人かな?年下?可愛い系?綺麗系?)

自分のお見合いよりも、南山のことがどうしても気になる。
でも、南山は私のお見合いには何とも思ってなかったみたいだし。

『いいんじゃない?』

明らかに、私には関心を持ってない言い方だったもん。



すると、個室のドアがノックされた。

「相手が来たね」

課長は安堵しているけど、私は心中複雑でいる。

 (会ってら断る。断ったら課長に謝って、警察辞めよう)

私はこの言葉を、何度も心の中で呟く。

「お待たせしました」
「どうぞ、入って下さい」

ドア越しに声がして、課長が応える。

そしてドアが静かに開かれ、スーツ姿の50代位の男性が立っていた。

「遅くなってすいません」
「いえ、そんなに待ってませんから」
「そうですか」

私がそう答えると、男性は優しく微笑んでいる。

「君もそこに立ってないで、中に入りなさい」
「はい」

ドアに隠れて姿は見えないけど、若い男性の声が聞こえた。

私は手をギュッと握りしめ、相手が入ってくるのを待つ。

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