金曜日は微熱
「(ほとんどの人、私が比嘉課長をすきなこと、知ってるからなあ)」



この状況に内心で同僚たちに感謝しながら、ふらふらと立ち上がる。

課長が私のコートを差し出してくれていて、素直にお礼を言いながら受け取った。




「小宮、今日はもう帰れ。足元覚束なくて危なっかしい」

「はぁい……」

「それと、飲み会のときどこでも寝る癖、なんとかしろ。あんな無防備にすやすや寝てたら、何かされたって文句言えないからな」



……私は、課長になら何かされたっていいんだけどな。

そうは思っても、口には出さず。こくりとうなずいて、ダッフルコートのボタンを留める。

ほんとにわかってんのか、みたいな鋭い視線を、比嘉課長が向けてくるけれど。ひとつため息をついただけで、課長はお小言をそこで切り上げた。


飲み会の会場になっていた居酒屋を出て、タクシーを拾う。

私と課長は、ここからなら家が同じ方向だ。目の前に停車した1台の後部座席に、ふたり一緒に乗り込む。



「先、小宮んち寄るぞ」



右隣りに座った比嘉課長が、そう言って横目で私を見る。

視線で、運転手に住所を伝えろと促しているのだろう。わかってはいるけど、私はつい押し黙った。
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