最後の恋愛
「じゃあ、俺も大和って呼ぼうかな。」

「・・・はい?」

思わず素で問い返す。

何ですって、聞き間違いか?

カウンターにグラスが置かれて、ついでにマスターが言う。

「でも、まさか大和ちゃんが、ムギと知り合いとは、驚いたね。」

「ムギ!」

大麦だからのムギですか、なんとも、安直ですね。

「俺も驚いたよ。大和が男にフられたって大声で叫んでお酒を飲んでるのを見た時には、目を疑ったからね。」

おおおぅ

やはりそれですか。

私は、運ばれてきたグラスを手に取り、ぐびりと煽った。

シラフでこんな話は聞いていられません。

「マスターは、大麦さんのこと知ってるんですか?」

「知ってるも何も、こいつ俺の嫁の兄貴だからね。」

なんと!

マスターに嫁が居たという事実と二重の驚き。

「話には聞いてたけど、酒癖の悪い35歳が、まさか大和のことだとはね。」

ああ、聞いてましたか。

そうですね、酒癖の悪い三十路です。

というか、今、ごく自然に大和と呼んだね。

「どうせ、俺の悪口も言ってたんだろ?」

「え、いやいや、そんなそんな。」

「言ってた言ってた。頑固ドSオヤジって、ドS、ムギSなのか。」

くっくと笑うマスターに向かい、本気で感じる殺意を抑え込んで、大麦をちらりと見上げる。

「俺、ドSかな?別に縛ったりはしないけど。」

そうですね、縛ったりはされたことないですけど、っていうかそういう話じゃないんですけど。

「柊じゃゆっくり話しができそうにないね、場所変えようか。」

場所変える?

つか、2ステージがあるわけですか?

「あ、はい・・・そうですね。」

ぎこちなく、棒読みに返して立ち上がる。
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