こんなのズルイ。
 私には、高校生のときから六年近くずっと片想いをしてきた幼馴染み、タツキがいた。タツキは私の親友のメグと付き合っている。その彼を忘れさせてやると言われて、同じく幼馴染みのコウタと付き合い始めて二ヵ月が経つのに、私たちは普段から手をつないだりしない。もちろんキスもまだ。だからさっき目尻にあんなふうにされて、すごくドキッとした。

(でも、やっぱり手はつながないのね。こんなのって付き合ってるっていうのかな……?)

 前を歩くコウタを見ると、彼はガラスの重いドアを引いて開け、ベビーカーを押した若い母親に道を譲っている。母親の「ありがとうございます」の声に、コウタが爽やかな笑顔で会釈をした。

 彼はいつだって優しい。私と付き合うことになったとき、私のことが好きだったと言ってくれたけど、本当はそうじゃなくて、私がタツキを忘れられるようにわざと言ってくれたんじゃないかとさえ思ってしまう。涙を止めるためにあんなことをするくらいなのだから。

 トボトボと歩く私に気づいて、コウタが声をかけてきた。

「おーい、アオイ、タツキたちとの約束に遅れるぞ」
「あ、ごめん」

 私は急いで歩調を早め、彼と並んだ。


< 2 / 11 >

この作品をシェア

pagetop