薬指の秘密
プロローグ
室内にいると12月だということをつい忘れてしまう

曇った窓をこすって外を見上げれば、微かに白いものが舞っている

真っ黒な空から降るそれを独り見上げる

「あ、海斗」

ちょっと、ちょっと

窓に映ったしった姿に、振り返って手招きをする

階段を下りる途中だった海斗は、怪訝そうに眉を寄せながらも

しるふのところまで来てくれる

「どうした」

見下ろす瞳は、漆黒

窓の外の夜空と同じ

「見て」

白衣の袖でもう一度窓を擦ってから、外を指さす

「ああ」

雪か

少しかがんで窓の外を覗き込んだ海斗のつぶやきだ

「もう12月だもんね。病院内にいると忘れちゃうけどさ」

なんてたってきっちり暖房がかかっている

「仮眠室、空いてるといいんだけど」

しみじみとつぶやくしるふの横で、脈絡のない海斗の言葉
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