薬指の秘密

その輝きは、まだガラスの向こうに

「海斗ー」

玄関でパンプスに足を通しながら叫ぶと少しして海斗が現れる

「ちょっと友達と飲んでくるね」

「ああ。…飯田?」

「あのね、私の飲み友達莉彩だけじゃないから」

そんな友好関係狭くないから

玄関にあるミラーでマフラーの巻き具合を確認した後、瞳を細める

「飯田だったらいろんな意味で安心だなと」

酔っぱらえば呼び出しがかかるし、ある程度近くまでは同じ道を帰ってくるからだ

「大丈夫。章子いるし」

「こないだの」

「そ、この間の」

どことなく飯田に似ていると印象付けたしるふの友人

「あ、あと山岸君いるから最悪タクシーで送ってもらえるし」

「…」

その一言は不安要素でしかない

目に浮かぶのは、あの人懐っこい笑み

瞳を細める海斗の視線の先でしっかりと手袋まで装着しているしるふがいる

「しるふ」

「ん?」

振り向いた瞳は変わらず無邪気で、きっと海斗の懸念なんて微塵も知らない

「飲みすぎるなよ」
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