薬指の秘密

姫君には最高の戒めを

善は急げって言う

でも、たとえどんなに急いでもすでにそれは善じゃないなんてことは多々

それでも後に引き延ばすよりずっといいんじゃないかと少しの希望を可能性をかけるんだ



「海斗君、海斗君」

冬になると防寒上の機能性から海斗のマンションへの帰宅率が格段に上がる

部屋が広い癖に帰ってきたときすでにしるふのアパートより温かい

そんなに貧乏なわけじゃないんだけれど

呼びかけに視線を上げれば、どこか違うところに向けられたブラウンの瞳

しかも

「なんでそんな遠くにいるわけ」

海斗が座っているソファからダイニングテーブルを挟んだキッチンの近く

しかもいつもより声が小さい

「…えっと、ご報告…がありまして」

「だからなんでそんな遠く」

「気にしないの!!しちゃいけないの!!」

せめてもの防衛だなんて言えやしない

すでに泣きたい気分なのは、ここ数年の海斗の調教のせいか

怒鳴られ、カルテを振り下ろされること数知れず

でも、一番怖いのは、沈黙が流れた後
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