見た目イケメン、中身キモメン
一章

(一)

私の彼氏は、喋らない。

付き合ってから半年は経つけど、彼氏が喋ったことを一度も聞いたことがなかった。

彼ーー倉石さんとの出会いは、私が夜の買い物帰りに、野良猫に囲まれたピンチを助けてもらったことが始まりだった。

うっかり、猫の縄張りに迷い込み、不運なことに買い物袋には刺身を入れていたため、右目に傷を持った巨大なボス猫を筆頭に、実に30匹の猫から威嚇された時は人生の終わりを感じた。

そんな時に助けてくれた倉石さん。私と同じ刺身を買っていたらしく、それを犠牲に救い出してくれた。

その後、お詫びとして私の家で夕食(刺身)を食べてもらい、連絡先を交換し、メールを続けていく最中、なんと、倉石さんの方から告白してきた。

『付き合って下さい。因みにながら、“どこに”という返答なしで』

危うく勘違いしそうになったけど、彼の好意が恋愛感情であるのは文面からして間違いない。

返事はもちろん、オーケーだった。
大学入学したての私と違い、倉石さんは社会人。五つ違いで果たして付き合っていけるかと不安もあったけど、彼との恋人生活は楽しかった。

何よりも誰よりも、私を大切にしてくれる。

喋らないーー理由は話してくれないけど、とても重い病気のせいでそうなった彼は、言葉なくとも私に『愛している』と伝えてくれるような人だった。

彼の行動全てに、愛情を感じるのだから。

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