紅き月

†―――――――



つんつん。
つんつん。



「ん……」


誰かに頬をつつかれ、少年は気怠そうに意識を取り戻した。


ゆっくりと目蓋が持ち上げられていく。

が、うっすらと開けられたくらいでは、その長いまつ毛が邪魔をして、やっぱりうまくは見えないのではないかと思う。



「……おい、大丈夫か?」

がさがさとした声が、少年の耳を刺激した。

ぼんやりとする頭には、何を言っているのかはっきりとは届いていないだろうが、頭の中のもやもやを押し出す効果はあったようだ。



少年は叫び声と共に飛び起きた。



「わぁぁっ!」

そして右手を振り払うような素振りをして、顔をしかめる。


「あ…れ……?痛くない……」


眉間に皺を寄せて、しげしげと観察している。
そのうちに、手の甲や指の隙間まで、手をくるくるとまわして念入りに観察し始めた。



「……そんだけ手を振り回す元気がありゃあ、大丈夫だな」


再びがさがさとした声が少年のすぐ傍で聞こえた。

驚いて声の主のほうへと目を向けた少年は、更に驚いて目を見開いた。



がさがさ声の主にだけではない。

その目に映った世界に、その異様さに、その全てに驚いたのだ。





紅。


目に映る全てが、

紅かった。



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