シークレットキス




輸入食品卸業者・『相川フーズトラベル』。

うちの会社は、自由がモットーだ。



仕事のやり方、経営理念、従業員の教育……どれをとっても自由で緩い。

それは厳しい規則や『こうあるべき』という決まりを嫌い、自由にやりやすいようにして個性を伸ばすという社長の性格が大きく影響しているのだと思う。



おかげで会社は能力を発揮した20代後半の若い社員を中心に力をつけ、メキメキと成長し、今では業界内で『有名企業』と言われるまでになった。

そんな会社を経営するのは、まだ29歳の若社長。

前社長である父親の会社を引き継いだとは言え、その歳で社長として会社を伸ばせるのだから、さぞかし経営者にふさわしい、真面目で真摯な好青年……と思いきや。



それとはまったくと言っていいほど違います。



「相川さーん、もう行っちゃうの~?」

「えぇ、残念ですがもう午後の仕事が始まりますので」

「あーん、寂しい~。今度はお昼じゃなくて夜に会いたいな。ふ・た・り・で」

「はい、もちろん。あなたのためならいつでも時間作りますよ」



あれです、あれ。うちの社長。

高いヒールをはいた美女にへらへらとした笑みを見せている、なんともだらしのない茶髪の男。



「じゃあねぇ~」

「また連絡します」



華奢な手を振りタクシーに戻る美女に、彼は笑顔でこちらへと向かい歩いてくる。


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