シークレットキス



イタリア製のいい生地の紺色のスーツに、キズひとつない黒い革靴。元々の癖っ毛なのだというふわふわとはねた茶色い髪。

面長な顔に印象的な薄茶色の瞳と、通った鼻筋をしたその顔立ちに、女性なら誰でも感じるであろう印象は『かっこいい』の一言だろう。



それが我が社の社長・相川潤。

そして私・間宮晴子が秘書を務める相手でもある。



「ハルちゃんただいま~。はー、ランチ行った店、料理は美味いのにコーヒー微妙だったー。ハルちゃんの淹れたコーヒー飲みたーい」

「おかえりなさいませ。コーヒーより先に仕事です。もう午後の業務が始まってますから」

「え~。美味しいコーヒー飲まないとやる気出ないよー。ねーねーハルちゃーん」



ビルに入った途端、先程までの余裕綽々な姿とは真逆に唇を尖らせて子供のようなワガママを言う。

こんな人が社長を務めているのだから、この会社は本当に大丈夫なのかと不安にもなってしまう。



「ハルちゃん、ハルちゃん」と甘えた声を出す彼に、細めのフレームの銀縁眼鏡をかけ、真っ黒な髪を軽く巻いただけのシンプルな身なりの私は、両手に書類を抱えツンとした態度でスタスタと歩いて行く。

そして目の前のエレベーターに乗り込むと、社長室のあるフロア……13階に向かうべくボタンを押した。


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