再会は最高の媚薬
あの日以来会っていなかったのに、再会する機会が来てしまった。
仕事で行けないと断ることも出来たのに、みんなの顔以上に聡史の顔が浮かんでしまったのが事実で。
もし叶うなら、『ごめんなさい』と謝りたいと思った。
今更だと嫌がられるかな・・
今回の集まりのことは会社の友人に何かと話のネタにされた。
友人いわく『再会は最高の媚薬』とのこと。
でも私にはそんなことありえない。

緊張するけど唇を噛んで気合いを入れ、居酒屋のドアを開けた。

中に入りスタッフのひとに予約した田中くんの名前を告げて、みんなの席まで案内してもらった。

「奈緒だ!」

声が聞こえ名前を呼ばれた方を見ると、麻実が笑顔で手を振っている。その笑顔につられて笑顔で返す。
でもその場にいた6人全員がこっちを見ているので、何だか恥ずかしくて手を振ることができなかった。

「久しぶり」と言ってくれた酒井くんと新城くんの声に「うん」と頷きかえし、「奈緒待ってたよ」と言う田中くんには「ごめんね」と返した。

「いいよ、いいよ。早くここおいで」

真紀が手招きしながら自分の隣を指差して田中くんを右横のお誕生日席に移動させた。
席は男女3人ずつ交互に座っている。

「ごめんね」

田中くんに言いながら座る。

「いいよ、俺幹事だし」

笑いながら田中くんはドリンクメニューを見せてくれたので、柚子みつサワーをお願いした。田中くんはみんなにもドリンクの追加を聞いてオーダーすると、場が落ち着きをみせた。
でもまだ挨拶も交わせずにいる人がいる。もちろん聡史だ。
聡史は向かいの左端に座っているので、右端にいる私は何となく視線すら向けられずにいる。

ーどうしよう・・ー

不自然かな?不自然だよね・・
そう思いチラッと聡史の方に視線を向けると、ビールのジョッキを口に運ぼうとしてた聡史と視線が合ってしまった。

思わず「あっ」とこぼれ出てしまった私に、聡史は『ん?』と首を傾げて見せた。すぐに『ううん』と首を振って答えると、意外なことにわずかに笑顔を見せてくれた。
そして聡史はビールを口にすると、隣の麻実に話しかけられて視線はそっちに行った。

聡の笑顔があまりに意外すぎて、ボーッとしていると左肘をつつかれたのを感じ隣にいる真紀に視線をやる。真紀は顔を寄せて来て「大丈夫?」とささやいた。
真紀も麻実も聡史との再会は気にかけていてくれた。「うん大丈夫」と答えた私は、自分にも『大丈夫、大丈夫』と言い聞かせた。


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