追い詰められた背中が壁に当たる前に、ふくらはぎが足元のビールケースに当たった。

私はかかとで中身のないケースを横に蹴倒した。

横に逃れようとすると、弘平(こうへい)の右手が伸びる。
逃すまいとする彼の手が私の耳の横、壁につかれた。

スーツの袖から、懐かしいオーデコロンの香りがした。
エリザベス・アーデンのグリーンティーだ。
弘平の香り。

水曜日の繁華街。
駅前の居酒屋の裏手。汚い路地。


こんなところに連れ出した時点でマイナスだ。
壁に追い詰めるという行為も、愛情より独占欲を感じて不快になる。

弘平がぐっと顔を近づける。私の鼻先10センチに弘平の顔。
近い。ものすごく近い。


苛立たしそうに歪んだ瞳と口許が目に映る。

写真に撮っておきたいと思った。
普段、優しくてイイ男を気取っているこいつに、自分がどんな顔しているか、見せてあげたい。

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