「まあ飲みなよ」


表札に使われそうな艶のある平板に達筆で書かれたメニュー。磨き上げられてでた独特の色艶のカウンター。

いかにも通な感じの渋い小料理屋で、遊川さんは俺にお猪口を差し出す。

肩を並べた俺達の腕は時折触れ合い、俺の鼓動は高鳴るばかり。……遊川さんは全く平気な顔をしているが。

なぜカウンターに並んでいるかというと、まずは物理的に彼女との距離を縮める為だ……と言うのは嘘で、単にこの店の席がカウンターしかないのだ。


「日本酒……ですか?」

「飲めるでしょ? ここは銘酒しか置かないからオススメよ。どれ飲んでもハズレはないわ」


徳利に入れられてはいるが冷酒である。
琉球ガラスででも作られたのかという鮮やかなグリーンのお猪口に入れてもらい、俺も彼女のそれにつぐ。


「それにしても遊川さん、渋い店知ってるんですね」

「いいでしょ。穴場よ。ちょっとお高くなるけどどうせ食べるなら美味しいものがいいしね」


くすりと笑って、彼女は喉を鳴らす。
口元についたお酒さえ惜しそうに、舌でぺろりと唇を舐める。


「美味しい」


その辺の男よりも格好いいエスコートをした後でのその可愛い笑顔。

遊川さんは卑怯だ。こんなの惚れ直さないわけないじゃん。

俺の心臓はドキドキして張り裂けそうだ。と言うとまるで乙女のようだが。
遊川さんに出会って初めて、俺は男も乙女のように恋ができるのだと知った。

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